「出世に興味がない部下」が最近、増えているようです。調査によると、一般社員の7割以上が「管理職になりたくない」と答えています(約77.3%)し、若手の中にはもっと高い割合の人もいるようです。管理職への道を望まない人は、決して「やる気がない」のではなく、価値観や働き方が変わってきたからかもしれません。このページでは、否定せずにその人たちを理解し、支えながら成果につなげる自然な対応策をお届けします。
「出世に興味がない部下」ってどれくらいいるの?
まずは数字で見てみましょう。
- JMAMの調査では、約77.3%の一般社員が「管理職になりたくない」と答えています。
- ほかの調査では8割近くが「管理職になりたくない」と回答する結果もあり、出世への関心が低い人はかなり多い傾向です 。
こうした傾向は、特に若手(Z世代など)に顕著で、「出世よりも自分のペースで働きたい」「プライベートも大切にしたい」と考える傾向があるようです 。
どうして「出世に興味がない」ことが増えたの?よくある理由
否定しないために、どうしてそう感じるのか、よくある理由を見てみましょう。
- 責任が増えるのに見返りがわかりにくい
管理職になると仕事が増えたり責任が重くなったりしますが、報酬や裁量が応じるとは限らないと感じる人もいます。 - ワークライフバランスを守りたい
仕事とプライベート、両方を大事にしたいという人が増えています 。 - 専門を深めたい
管理職よりも、自分の得意分野を高めたいという思いから、出世に興味がない人もいます 。 - ロールモデルが見えにくい
身近に管理職が活き活きしている姿が少ないと、出世してもいいイメージが持ちにくいかもしれません 。 - 出世しても幸せじゃない姿を見た
家族や先輩が苦労している姿を見て、「出世って大変そう」という印象を持つ人もいます 。
その状態を「やる気がない」と決めつけてはいけない理由
「出世に興味がない」=「やる気がない」ではありません。多くの人は「今の働き方でじゅうぶん充実している」「違う形で成長したい」と考えています。むしろ、純粋に仕事が好きだったり、自分の得意を活かして貢献したい気持ちを持っている場合も。大切なのは、興味の方向性を理解して尊重することです。
どうすればいい?まず押さえたい「NG対応」と「OK対応」
やめたほうがいい対応(NG)
- 「出世しないなんて無責任」と決めつける
- 「出世しないなら活躍できない」と一方的に否定する
- 無理に説得して押しつける
大切にしたい対応(OK)
- まずは「どうしてそう思うのか?」と本人に理由を聞く
- 専門職やプロジェクトリーダーなど、別のキャリアパスを紹介する
- 日々の仕事で「あなたの強みはここだよ」と認める
- 心理的に安心して話せる雰囲気をつくる
こうしたアプローチは、本人のモチベーションを傷つけず、信頼関係を築く第一歩になります。
1on1の進め方——今日から使える質問例
「出世に興味がない部下」と向き合うとき、1対1の面談(1on1)がとても役立ちます。1on1では評価や説得ではなく「安心して話せる場」を意識しましょう。
オープニングの質問例
- 「最近、楽しかった仕事は?」
- 「逆に、できれば避けたいと感じた仕事は?」
- 「1年後にどうなっていたら“よかった”と思える?」
深掘りの質問例
- 「もっと挑戦してみたい分野はある?」
- 「今の報酬・責任・裁量のバランスで、理想に近い部分と改善したい部分は?」
クロージングの質問例
- 「次に小さく始められそうなことは何かな?」
- 「次回までに一歩進められそうなことはある?」
短くても定期的に行い、会話の積み重ねで信頼関係を作ることが大切です。
評価と目標設定の工夫
「出世」に興味がなくても、努力や成長を評価されたい人は多いです。そこで役立つのが「スキルの見える化」と「成果以外の評価基準」です。
スキルマップで得意を見える化
例えば、下のようにスキルを表にして、成長の形を共有できます。
スキル項目 | 現在レベル | 目標レベル |
---|---|---|
資料作成 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
後輩指導 | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ |
専門知識(IT) | ★★★★☆ | ★★★★★ |
「できること」を見える化することで、出世以外でも成長を実感できます。
OKRやMBOをシンプルに導入
OKR(目標と成果指標)やMBO(目標管理)は難しい言葉に見えますが、シンプルに取り入れることが可能です。
- 目標(O):短い一言で「どんな状態を目指すか」を表す
- 成果指標(KR):数値や行動で確認できるもの(例:「月に2回、勉強会で発表する」)
こうした仕組みを使うと「昇進」以外でも成長が可視化され、部下も納得感を持ちやすくなります。
キャリアの選択肢を広げる——複線型キャリアとは
管理職以外にも、専門職やプロジェクトリーダーとして活躍できる道を用意する会社が増えています。これを「複線型キャリア」と呼びます。
複線型キャリアのメリット
- 専門知識を伸ばし続けたい人が活躍できる
- リーダーシップより技術で貢献したい人が定着する
- 組織に多様なロールモデルが生まれる
小さな会社でも「専門職グレード」を設けたり、期間限定でプロジェクトリーダーを任せるなど、導入は工夫できます。
チーム運営の工夫
「出世しない=伸びない」ではありません。チームの中で役割を分け合うことで、それぞれの強みを活かせます。
- 資料づくりが得意な人には「まとめ役」
- 人前で話すのが得意な人には「発表係」
- 品質チェックが得意な人には「検証係」
こうした役割分担により、出世に興味がない人も強みを発揮できます。
実践チェックリスト
以下のチェックリストを使うと、日常的に意識できます。
- □ 部下の「やりたいこと」「避けたいこと」を言葉にできている
- □ 成果だけでなく学びを評価できている
- □ 1on1を月1回以上できている
- □ 専門職やプロジェクト型など別のキャリアパスを示している
- □ チームの安心感を測る工夫をしている
ケース別Q&A
Q. 評価は高いのに、昇進を断られる場合は?
その人の希望を尊重し、専門職や別のポジションで活躍できるように道を開くのがよいと考えられます。
Q. 若手が「副業や学び」を優先しているときは?
業務とどう両立するかを一緒に話し合い、会社にとってもプラスになる学び方を探すとよいでしょう。
Q. 一度は昇進を断ったが、将来の変化に備えるには?
キャリアは変わるものです。将来の可能性を閉ざさず、今の選択を尊重しながら、定期的に話すのが安心です。
まとめ:否定せず、選べる道を一緒に考える
「出世に興味がない部下」は、やる気がないわけではなく、自分らしい働き方や成長を求めています。管理職にこだわらず、専門職やプロジェクトなど多様な道を用意することが、本人にとってもチームにとってもプラスになります。大事なのは、無理に出世を迫るのではなく、一人ひとりの強みを引き出し、一緒に歩める仕組みを作ることです。
コメント